技能実習生及び特定技能労働者の現状
技能実習生・特定技能資格者の受入れのために30数年ぶりに訪れたベトナムの現状を「見て・聞いて」現地のマスメディアの論調を通して整理してみました。
記事はベトナム生活情報サイト「ポステ」他からの引用していますのでご了承ください。
【ベトナムの課題・問題】
(高齢化と社会保障)
ベトナム生活情報サイト「ポステ」の記事によると、急速に高齢化が進むベトナムでは無年金や無貯蓄の高齢者が増加しているという。
また、高齢夫婦の収入の大半は医療費として消え、日増しに家計は苦しくなるばかりで、900万人の高齢者が同様の生活苦に陥っているという。
人口・家族計画化総局によると、農村部に暮らす高齢者の65%以上が安定した収入のない農民で、多くが老後のための十分な蓄えがなく、経済的な困難に直面しているという。
国連人口基金によると、ベトナムでは社会保険制度への加入率が低く高齢者の76%が無年金で2030年には約1200万人が無年金者になると言われている。
このように急速に高齢化が進むベトナムでは無年金や無貯蓄の高齢者対策が国として早急に取り組まなければならない大きな課題だといわれている。
(非ガス環境汚染)
ベトナム交通局によるとハノイ市内には自動車100万台以上とバイク約650万台、電動バイク18万台を含む760万台以上の車両が登録されているという。
2021年に5年以上使用された車両5200台以上を対象に無作為検査をしたところ、多くの車両から基準以上の排ガスが放出されていることが明らかになった。
ベトナムのバイクは手軽で自由の利く移動手段として風物詩でもあるが、一方では排ガスによる環境汚染が広まるとともに都市部では交通混雑を引き起こしている。
ハノイ市では2024年から排ガス評価を実施し、基準を満たさない車両は課金されるとともに市内特定区域への立ち入りを制限するとしている。
増え続けるバイクは排ガスや混雑が大きな社会問題となり、国はインフラや公共交通機関の整備に併せて排出ガス料金を課すことを検討するとの事である。
【プラス成長のベトナム市場】
(株価の上昇)
ホーチミン証券取引所の時価総額は最近300兆ドン(約13兆米ドル)増加し、3取引所の平均売買代金は18兆5000億ドンに到達。前月比34%増となったと現地メディアは報じている。
また、投資銀行業務及び仲介サービスを提供する「VNダイレクト・セキュリティーズ」によると「米国やベトナムのインフレが緩和されたこと」や「米連邦準備制度理事会(FRB)が今年最終四半期に利上げを減速させるとの予想で国内市場の心理が改善したこと」、「投機資金流入」などが、指数の反発を後押ししたという。
このように、高齢化の進展やそれに伴う老後の安定や都市基盤の整備、化石燃料の消費による自然環境への負担増等々の課題を抱える一方、経済は右肩上がりの成長を続けているベトナムは30数年前の訪問から大きく発展・成長し東アジアの雄となりつつある。
【送出し最大の国ベトナムの現状】
(トコンタップ社)
1956年国営企業として設立、2025年から株式会社となり農産物や衣料品の輸出入、縫製工場、人材派遣、投資を行っており、技能実習生ベトナム最大の送り出し機関トコンタップ社をヒアリングをした。
同社は現在まで日本に約3,000人派遣し現在実習生は約900人で派遣先から一番求められているのが縫製、建設、農業、溶接業等との事でした。
実習生は高給で都市部を好む傾向にあり、現在、コロナで生徒たちが出身地へ戻り募集が難しいことと併せて、企業進出が進み就職先が増え、あえて、技能実習に応募しなくとも良い状態とのこと。
実習生からは建設業と農業は敬遠され、今後は給料が高く実習場所が都会であることや親切な環境が用意されていることが重要と感じました。
(技能実習制度の問題・課題)
NNAアジアによると、日本を訪問中のベトナムのダオ・ゴック・ズン労働・傷病軍人・社会事業相は加藤厚労相に日本に滞在するベトナム人労働者の受
け入れ対象職種の拡大や技能実習生に対する住民税・所得税の免除を考慮するよう要請し、加藤厚労相は「免除要請は財務省と議論する」と応じたという。
ベトナム側がこのタイミングで「免税」のカードをチラつかせてきた背景には、ベトナム人労働者の「日本離れ」が進行していることがあるという。
また、日本農業新聞によれば背景にあるのが「円安」でベトナム通貨ドンに対し円は年初から20%近く安くなっており、円建ての月給を本国へ仕送りす
ると目減りし、それにさらに拍車をかけるのが、住民税、所得税、年金、社会保険料だという。
日本人からすれば、給料額とこれらが天引きされた「手取り」に差があるのは常識だが、ベトナム人からすればこれはピンハネだと受け取り、日本で働くことを断念する者もいるといいます。
ベトナム政府が技能実習生の「免税」を要求したのも、実はこのような背景があるいう。
ベトナム政府としても、労働者の最大の送り先である日本とモメてもメリットはなく「人権侵害」のカードをチラつかせながら、ベトナムの国益にもつ
ながる「労働者の受け入れ拡大」や「免税」を勝ち取った方がいい、という判断になるのは当然という。
技能実習生を管轄する労働傷病兵社会省傘下の海外労働管理局宣伝情報課によると、日本へは1992年以来、技能実習生として延べ35万人以上が派遣されているという。
ベトナムニュース総合情報サイト「VIETJO」では日本での月収は約16万4000~19万1000円で、韓国へは同じく1992年以来、延べ12万人以上が派遣されており、月収は約19万1000~24万6000円と韓国の方が高い。
また、オーストラリアの最低賃金は時給2010円(2022年9月11日現在)で土曜日の時給は平日の1.5倍、日曜日に至っては2倍の額が保証されているという。
このようなことから、ベトナムは日本と比べて圧倒的に賃金が高いオーストラリアと今春、農業労働者の派遣・受け入れで協定を結んだという。
(都合のいい外国人労働者はいない。見切りをつけられる日本)
経済成長を果たした国はナショナリズムが急速に盛り上がるのが常で、かつ
て日本で屈辱的な仕打ちを受けたベトナム人が増えれば「被害回復」の声は強くなっていくだろうと有識者は言っている。
現在、日本の一部職場で行われているベトナム人への人権侵害、低賃金労働は時間を経過すれば日本とベトナム間で大きな問題になるのではないか。
ベトナムの人々と良好な友好関係を続けるには、「奴隷」のように低賃金で使える外国人労働者など、世界のどこにも存在しない、という現実を日本人は直視すべき時期に来ている。
(古川前法務大臣所見(朝日新聞2022年7月30日朝刊))
このように国際的に技能実習制度への非難が高まっていることを受け、古川前法務大臣は実習生が日本の人手不足を補う労働力となっていることや、不当に高額な借金を背負って来日し転籍できないため実
習先で不当な扱いを受けても相談出来ない現状があることを問題視し、制度施行30年(2023年)を機に総点検し本格的に見直すとしている。
見直す方向性としては「目的と実態に乖離が無い仕組みづくり」とし、今秋にも関係閣僚会議の下に有識者会議を設置し、具体的な制度設計を検討することとしている。
(総論としての技能実習生の受入れ)
国際的な世論としての技能実習生への人権侵害や低賃金労働は日本の国際的信用や送り出し国との友好関係を壊してしまう恐れがあり、早急に対応する必要がある。
純粋に開発途上国への技術移転での国際貢献には、今回訪問した「有機農業経済研究所」などの必要機関とトコンタップ社等の送りだし機関と連携を密にした取り組みが重要である。
また、技能実習の労働力としての受入れは制度本来の趣旨・目的から外れるが「日本で学び働きながらサラリーを得る」と言った送り出し機関及び実習生の了解の下での態勢整備が必要である。
その為の態勢づくりとして、国の制度改正の状況を見計らいながら管理団体の事業組合設立や許可申請等の一連の作業と併せて特定技能外国人の支援機関を設立することも重要である。
以上が技能実習生・特定技能資者の受入れを検討するために30数年ぶりに訪れたベトナムの現状から導き出した答えである。
おわり