外国人との協同

熊本市は自治基本条例の改正で「市民」の定義に、外国人を含むと明記することに反対が多数を占めたこと等から「関係文言を削除し提出を先送りする」と結論付けた。
                           (2023年3月17日熊日朝刊「現場から」)

2023年3月17日熊日
2023年3月27日熊日

このことは、議論の末であることから止むを得ないが、過程にいささかの不満と疑問が感じるのは私だけでしょうか。

先ず、注視しなければならないのは、前提としてのPublic Comment(以下、「PC」という。)応募者1,476人の内、市外在住者1,019人(69%)という点である。

地方の小さな市の条例改正に多くの人たちが興味と感心を持つことは嬉しい限りであるが、果たしてそれだけの事だろうかいささか疑問である。

そもそも、PCとは出された意見や要望に対し、丁寧に説明し、概ねの理解を得て進めることであり、安易に反対の意見が多いから廃止やその部分の削除をする制度ではない。

次に、誤解による反対と言われているが、果たしてそうなのか?意図して誤報を垂れ流し、市民や議会を混乱させる考えの輩がいたのでは無いか。

思い出すのは、ワールドカップ・サッカーの共同開催など日韓関係が良好な廬武鉉大統領時代の2002年に菊池市が提唱した「九州地域における韓国人のノービザ運動」への街宣車やネットでの誹謗中傷や反対運動の数々である。

提唱者の福村三男市長(当時)の懐刀で、韓国に造詣が深く長年交流を続けているフリージャーナリストの津留今朝寿氏は「最近目立つ外国人へのヘイトスピーチや排斥運動、特に、東アジア諸国や中国等への警戒心や嫌悪感に基づくもので無いか」と解説している。

津留今朝寿氏

当時はもっぱらネットブログや機関誌、街宣車が主であったが、国の構造改革特区としてノービザの韓国人修学旅行への導入やアシアナ航空便の乗り入れ等々、日韓友好が実現した中で一連の騒動は沈静化した。

私たちがここで学んだことは、いかなる排斥運動にも屈することなく、問題や課題と言われることにきちんと説明し、理解と共鳴を得て毅然と進めることが国際間の信頼となり友好や親善に大きく進展するものだと言うことでした。

折しも、元徴用工訴訟問題で11年以上冷戦状態にあった日韓関係が改善に向け動き出した今日、ノービザ運動の提唱者でもある福村三男元菊池市長の葬儀・告別式が地元菊池市であり、当時の事が思い出され感慨深いものでした。

今回の議論の舞台となったPCは、公的な機関が規則或いは命令などの類のものを制定しようとするときは、広く公に、意見・情報・改善案などを求める手続きを言います。(ウイキペディアから引用)

今回寄せられた反対意見は、事実や正確な理解に基づかないものが多く、街宣車での回遊やFAX・電話での市議会議員への圧力、SNSでの拡散による政治的混乱や外国人排除を目的とした力が動いていることが推測される。

また、今議会への上程を見送ることに対して市長は「改正が外国人への反感につながり、あつれきを生んでは何にもならない」と述べたことは十分理解出来る。

しかし、先ほど述べたようにPCは出された意見や要望に対し丁寧に説明し、概ねの理解を得て進めることであり、安易に反対の意見が多いから廃止やその部分の削除は説明責任の放棄と捉えられても致し方ない。

今回の自治基本条例は制定当初(幸山政史市長)から波紋を呼び、議会との対立の中で成立したことを記憶していることから、その辺にも理由があるのでは考えられる。

今回の件は、早くから外国人との共存社会を進めてきたと自負する熊本市で今回、結果としてその理念が浸透していなかったことが浮き彫りになった事は否めない。

地方分権推進一括法制定から30年が経過する中で、地方が独自の判断で政策を立案・実行し、相応の責任と気概を持って進めることが求められている今日、主体性と制度設計への熊本市の未熟さが窺われる。

熊日から引用

積極的に海外企業を誘致・受け入れを政策として進めるならば率先して外国人を受け入れる姿勢や共に暮らせる政策を進めることが大事であり、一番身近な外国人を市民という当たり前の位置付けにした社会構築に向け、住民意識を高めることが重要である。

今後、特定技能や技能実習、そして、TSMCや関連企業の立地が加速し滞在外国人の増加が見込まれる熊本県において、その中核市である熊本市が多文化共生都市を目指すのであれば、「先ず隗より始めよ」である。

その後の新聞報道

熊日から引用
熊日から引用

新聞がこれ程取り上げる意味を当事者の熊本市がどれほど理解をしているか疑問である?
ここで試されるのは、熊本市のプリンシプルである。

多文化共生社会を標榜するのであれば、外国人を市民として定義づけることは勿論で、それを基本とした政策を・施策を立案し実行することが重要である。

また、ただ単に住民の意見を聴くだけでないPC制度自体の本質を理解しているのかも、大いに疑問がある。有識者には「誤解に基づく意見不要」論や「国際化に逆行する決定」と辛らつな意見も特筆されている。

条例修正断念の理由の理由としての「外国人との間に分断が生まぬため」は聞こえは良いが本質を欠いたものであり、今後に大きな遺恨を残すと思われる。

いずれにしても、市としての理念やPC制度の本質といった原理原則(プリンシプル)を理解し、キチンと守っていくことが、政令指定都市で多文化共生社会を標榜する熊本市には求められているのではないか。

20231104熊日
20231218熊日朝刊

「多様性の時代」と言われる現代社会では、様々な意見や主張を聞き入れることは重要だが、主張者側が確固たる考えを持たないと翻弄され、事の原理原則を見失ってしまう。

多文化共生社会の中で「外国人も市民だ」だと言う極、当たり前の事を「分断が生じかねない」との理由で却下したことは多様な意見を聞き入れた事にはならない。

そこには説明責任や議論の不足と「二者択一の論理」しか残らず、確固たる行政の政策立案が為されていない感じが否めないのは私だけだろうかと自問自答している。

20240109熊日朝刊から抜粋

今回の熊日新聞のアンケート調査は、今まで取り上げてきた熊本市の「条例改正一部断念」への集大成で、当事者熊本市の反応の鈍さにこのアンケ―ト結果で終止符を打つものだと思える。

唯一の救いは、今回の件で議会や市の「多文化共生社会」への意識が少し向上し、推進施策の具体化が図られたことでは無いでしょうか?いや、そうあってほしい。

執行部の判断基準としての「混乱と分断を誘発する危険性を感じた」や「参政権の件などは、説明してもなかなか理解してもらえなかった」は、まさに少数派のバイアスの危険性や説明責任の放棄と受け取らざるを得ない。

また、議会も議員の質や知識の向上が求められ、大局観を持った判断と意思決定の必要性が求められる。

20240114熊日朝刊から抜粋

熊本市第2期国際戦略(素案)が発表された。一連の自治基本条例改正案を受けて「多文化共生社会」実現への具体策だ。

【外国人も市民】の文言を改正案から外した事への市民やマスコミ、学識者等からの批判を受けての取組として「在住外国人の声」を策定に反映したことは正解だ。

この後、パブリックコメント(以下、「PC」と言う。)を経て成案としていくとの事だが、様々な意見や要望、そして、クレームにキチンと説明責任を果たして欲しいものだ。

PCは、多くの人たちに行政の重要政策(案)への声を聞き、説明して理解を得るのが本来の役目であり、決して、意見に左右されるものではない事を確認したい。

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